気象庁の緊急速報メール配信の見直しについて正しく理解する

2022/12/13 追記:当該緊急速報メールの廃止日が2022/12/26に決定したと発表された


 概要

気象庁は、緊急速報メール配信の一部を廃止することを2021/10/12に発表したが、性急な廃止の方針に対して批判を受け、再検討を行うとしていた。そして先日、2022/10/18の発表により、今後の防災気象情報の的確な配信を目指した取り組みを進めていくとしながらも、当初計画のとおり、気象等に関する特別警報・噴火に関する特別警報についての緊急速報メール配信を廃止(2022/12月廃止予定)することを示した。

一方、本件に対する報道やSNSの投稿の一部において、緊急速報メールの内容や技術的な仕組みについて誤解があると思われる記述も散見された。

本記事では、緊急速報メールの種別と技術的な仕組みについて整理した上で、気象庁の対応の是非を論じる。

緊急速報メールの種別

緊急速報メールで配信される情報のうち、気象庁からは下記の情報が配信される。この内、今回の廃止対象となるのは気象等に関する特別警報・噴火に関する特別警報についての配信であり、緊急地震速報・津波警報についての配信は継続される。
また、地方公共団体(都道府県・市区町村)によって、下記の情報が配信される。記載のとおり、津波警報・大雨等の気象情報(避難情報)・噴火情報については、気象庁と地方公共団体の配信内容が重複する場合がある。
  • 災害・避難情報
    • 高齢者等避難
    • 避難指示
    • 緊急安全確保
    • 警戒区域情報
    • 津波注意報
    • 津波警報
    • 大津波警報
    • 噴火情報
    • 土砂災害警戒情報
    • 東海地震予知情報
    • 感染防止のための外出自粛要請
その他、各省庁から下記の情報が配信される。
  • 国土交通省
    • 洪水情報(指定河川洪水予報)
  • 消防庁
    • 国民保護に関する情報

緊急速報メールの仕組み

緊急速報メールは携帯電話各社によって提供されているサービスである。
「緊急速報メール」という名称のせいで誤解されがちだが、技術的には、電子メールではなくETWS (Earthquake and Tsunami Warning System : 地震津波警報システム) と呼ばれる携帯電話の仕組みが使われる。(3Gの場合はCBS, BC-SMSなど)

ETWSの大きな特徴は、携帯電話の制御のために基地局から常時発信されている信号を使用して緊急速報を配信することにあり、1台1台の端末との通信トラヒックが発生しないため、ネットワークが輻輳する危険性がない。

以下に、緊急速報メールと防災アプリの特徴を比較する。
緊急速報メール防災アプリ
事前設定不要(端末が対応していること)×必要(アプリのインストールなど)
位置情報の送信不要(配信対象の基地局のエリア内にいる全ての端末に対して配信)×必要
即時受信基本的には即時受信可能だが、ネットワークやアプリサーバの輻輳によって遅延が生じたり配信に失敗したりするリスクあり
圏外にいた場合×受信不可×圏内復帰後に再送されるかはアプリによる(基本的には不可と思われる)

主張

1. 気象等に関する特別警報・噴火に関する特別警報について、気象庁と地方公共団体の配信が重複することや、気象庁の配信内容の粒度が粗い(対象の地区町村が記載されない。特別警報のみが対象で警報・注意報は配信されない)ため、見直しを検討する余地があることには同意するが、それをもってただちに廃止するというのは短絡的にすぎる。
 2022年1月に神奈川県で緊急速報メールの配信設定誤りが発生したように、地方公共団体からの緊急速報メールが正常に配信されない可能性(この事例は過剰な配信が発生したケースだが、逆のケースもありうる)があることは十分考慮するべきであり、冗長のために気象庁の配信を継続する意義はある。
 他の情報伝達手段が利用できないケースなどを具体的に検討し、それらのリスクが発生する可能性と、配信を継続するために必要なコストをあわせて議論する必要がある。

2. 「防災気象情報を「早めに」「地域をより絞って」伝達する取組をより一層推進する」としているが、本来であれば、本発表と同時にその取り組みの具体的なマイルストーンを示すべき。

3. 「危険度の高まりをプッシュ型で通知するサービスの普及拡大をより一層促進」としているが、防災アプリの利用には事前準備が必要であるため、特に高齢者などに対して、緊急速報メールやそれに代わる強制受信型の情報伝達手段は必須である。
 また、「防災アプリなど防災気象情報の提供環境が充実している」としているが、防災アプリのユーザは基本的に携帯電話ユーザに内包されるため、緊急速報メールを受信することができる住民の内の一部しかカバーすることができない。
 従って、将来的な計画として、緊急速報メール以外の(緊急速報メールを受信できない住民に対する)情報伝達の方法について、予算措置を含めて検討する必要がある。

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